団地のはなし
『団地のはなし』
(青幻社・団地のはなし http://www.seigensha.com/newbook/2017/02/08152620)
団地って、なんか画一的で特徴が無くてつまらない。昔はそう思っていたはずなのに、ここ最近はずっと面白いと感じている。
少し昔の、土地も人も少し余裕があるときに建てられた団地の敷地は、広い。駐車場はたっぷりと平面で作られ、建物の間隔は採光やプライバシーを考慮して十分に取られている。芝生の緑がきれいに生い茂り、植えられた木々は数十年の時を経て、見事に高く逞しく育っている。
団地の建物の特徴として、スキップフロアという建て方がある。この工法は、共用の廊下を数階ごとにつくり、階段の両側に部屋を設けることで、全ての部屋が南北に大きな窓があり、風が通りやすい構造にしている。エレベータが止まる階が限られるという欠点はあるが、風通りがよく、防音の効果もある。
基本的な部屋の間取りは、3DKだが、上記のような理由から、あまり狭さを感じさせない。そして、何より各住戸がそれぞれの好みに合わせて部屋をリノベーションしていることが「画一的」という昔のイメージを払拭させる一番の理由だ。
3DKの間取りも、現代的な2LDK、1LDKに変えてしまえば、十分な広さが得られる。
古いアルミサッシの窓もそのまま残すこともできるし、二重窓にしたり、気密性を高めることも可能だ。
キッチン、風呂、トイレなどの水回りを新しくすれば、基本的な家の使い心地は新築と変わらない。そのうえで内装を自分の好みに合わせて作ることができる。
有名なのは無印良品とURのリノベーション事例だ。
無印らしい、清潔感のあるシンプルな内装に仕上がっている。
同じように、イケアもURとの協働で、リノベーションを行っている。
もっと、実験的に、セルフビルドやDIYで、自分たちで団地をリノベーションしようといった堀川団地のような事例もある。
流行り、といえばそうなのかもしれない。古いものが好き、小さくて自分らしい暮らしがいい、そんな今の雰囲気に団地の魅力がちょうど合っているのかもしれない。
僕も、団地の良さは感じているし、面白い場所を使わせてもらっていると思っている。中古のそれを買ったのに、どこか「借りぐらし」「仮暮らし」のように感じている。
昔から使われてきたこのハコに、今度は僕らが入ってきた、という感じ。また別の誰かに渡るときがくるかもしれないし、新しいハコに生まれ変わるかもしれない。
せっかく作られたいいハコがあるんだから、もっと面白く楽しい使い方をしてみたい。そんなふうに思って、団地の魅力に憑りつかれる人は多いのだと思う。だから、団地は再考されている。
新築マンションのチラシで声高に謳い、乗り出すように勧めてくる点がどれも同じに見える。広いバルコイー、開放的なリビング、動線の良い水回り。どれも魅力的だが、とても画一的になっているのは新築マンションのほうに思えてくる。
もちろん、リノベーションだって、考えもなくやってしまえば同じようなものが出来上がる。とりあえずスケルトン風に、シンプルに、自然の木のぬくもりを、と。ただ、可能性の幅、選択肢の幅がある、という意味でリノベーションの魅力はとても大きいと思う。
面倒なことを考えなくても、整った生活ができるのは新築マンションかもしれない。
団地での暮らしは、面倒で工夫しなければいけないことが多い。それは住んでみて実感するところである。
その面倒くささが好きな人、不便さを楽しめる人は、きっと団地のはなしを好んで聞いてくれる気がする。
小さなハコのなかで、それぞれの生活がそれぞれのやり方で営まれている。
その生活の中で、時折お隣りの息遣いが聞こえてくるような、適度な風を感じられるのが、とてもいい。
そんな団地を楽しんでいたい。
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