本屋さん
Title
昨年、新しい新刊書店「Title」が荻窪にできた。
まだ行ったことがないけれど、ずっと行ってみたい本屋さんの一つだ。
店主の辻山良雄さんは、元リブロ池袋本店のマネージャーを務めあげた敏腕の書店員だ。
その辻山さんがご自身のこれまでのノウハウと経験、そして長年培ってきた本と人との出会いを存分に生かして作った本屋さんのことを、隠すことなく描いている。
柔らかい調子で、しかし抜け目なくいい本屋さんを作り上げていくその過程は、プロの技だ。
町に、こんな本屋さんがあったら、どんなにうれしいだろうか。
本屋の客として
本を読む人は、少ない。自分が、少数派であることは分かっている。
そして、本もだんだん売れなくなっている。どんどん、新しい本は生まれてくるのに。
それでも、小さな出版社が素晴らしい本を作り上げることがある。
地方の文芸誌にそこでしか見られない見事な文章が掲載されることもある。
遠い目で見るとどんどん衰退していく世界でも、足元には輝くものを見つけることができる。
お客さんである僕は、そんな本との出会いを、本屋さんに求めている。
本屋さんにとっては、苦労することかもしれないが、便利な今の時代は、本を読む僕らにとっては、さまざまな選択肢のなかから本との出会いが生まれる恵まれた環境にある。
紙の本を店頭で見て、触って選ぶことができる。
あらかじめ、買いたい本をすぐにネットで買うことができる。
電子書籍で、すぐに読むことができる。
古本屋で安く出回った本を買うことができる。
高価な専門書、買うほどでもないけど気になる本は、図書館で借りることもできる。
だから実店舗のある本屋さんに、本にかかわる全てのことを求めていない。
ただ、あてもなく本を探したいときがある。
棚のつながりから、新しい本を見つける喜びがある。
そこでしか買えない稀少な本がある。
大切な一冊をこの手で買いたいときがある。
毎月、毎週決まって買うようなものがない僕にとっては、そんなふうに本屋さんに行く。
どこに行っても変わらない、ふつうの町の本屋さんは少なくなり、セレクトショップのような本屋さんが目立っている。
蔦屋書店だって、ライフスタイルの提案を売りにしている、本屋さんの一つのあるべき形だと思う。
どこに行っても変わらないものは、チェーンの飲食店やコンビニにとって代わられている気がする。
変わらないことの安心さ、が大切なときがある。
それが無くなることはやっぱり寂しい。
でも、それはもう本屋さんには求められなくなったのかもしれない。
いま、似たようなセレクトを行った新古書店が多い、という指摘もあるものの、まだまだ全国的には少数だ。ちょっと頑張って出かけなければならず、全国に散らばる本好きの数とちょうど合っているようにも思う。いま、いろんな書店が集まるブックイベントが、賑わいをみせるのはそのせいだ。
たとえば夏葉社さんの本が、そうした全国の本好きの集まる本屋さんにあることがうれしい。
置いてある本屋さんは、他にもいい本が置いてありそうない気がするから。
本屋Titleは、まちの本屋さんとセレクトショップのバランスをとてもうまく見極めた店だ。
その優れたバランス感覚こそが、辻山さんのプロのセンスであり、Titleらしい個性として店を作り上げている。
小さな書店だからこそ、個人店だからこそ、バランスをうまくハンドリングできる。
一冊一冊の本の売れ行きを確かめながら。
一人一人のお客さんの顔を見ながら。
お客さんとしても、そういう店は入ってしばらくすると分かる。
本好きな人をとらえる仕掛けがさりげなく、置かれている。そういう棚作りができる。
辻山さんのそのうまい仕掛けの数々が、とても丁寧に本書には記されている。
本屋になりたい
いつか、僕も本屋さんをやってみたい、という妄想は何度もしている。
古本と直取引の新刊を棚を分けて並べる。
書籍の売上だけでは持たないだろうから、カフェも併設する。
靴を脱いで上がるような、落ち着いた家のような本屋がいい。
心地よい音楽を流し、ベンチを置いてゆっくり本を読んでもらう。
床に座ってもいい。子どもが遊べるような庭があってもいい。
できれば絵本を多めにしたい。
絵本を読む子どもが増えると、未来の読者が増えるから。
たくさんの本好きが生まれる場所。集まる場所。
そんな本屋さんは、やっぱりいいなぁ、と思う。
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