珈琲のはなし。
珈琲のはなし。
京都在住のエッセイストである高橋マキさんの『珈琲のはなし。』という本を購入した。限定1000部、大阪ではスタンダードブックストアというちょっと変わった本屋でしか買うことができない。
買いに行くと、あまり見かけない店主がちょうど対応してくれた。
「ここにしか売っていないから、ここまで来ました」と声をかけたら、「任せる。と言われて渡されちゃってね」と応えてくれた。
この本は、2010年から1年間京都の新聞に載せられた喫茶店のコラムを集めたものだ。
店の記憶
京都には古くからある喫茶店が多い。古くから、といっても京都の町にとっては新しいのかもしれない。
平成も30年に近づいている今、昭和の時代はずいぶん遠いものになった。取り上げられている店には、古い喫茶店が多く、その時代から継がれてきた店が紹介されている。
もちろん、そのなかにはこの5年のあいだに無くなってしまった店も多い。だから、この本は、よくあるカフェガイドというよりも、喫茶店を取材した店の記憶を残したエッセイに近い。
日常の喫茶店
喫茶店は、日常のなかにある。観光客の多い京都でも、それは変わらない。いつも通うあの店で、お客と店主が語る。そんな風景が喫茶店にある。
京都に住んでいたころに、よく通っていた喫茶店があった。当時は大学生で、特にマスターと話すことなく、訪れては席でひたすら本を読んでいただけだった。ところが、就職、結婚を経て久しぶりに訪れると、「久々に来はったねぇ」と声をかけてくれて驚いた。自分自身のなかだけでなく、その喫茶店のなかにも自分の姿が記憶として残っていたことがうれしかった。
店から見ると
喫茶店のフロアの店員としてバイトしていたことがある。その当時のバイト先も、この本には紹介されていて、懐かしくなった。ふだんはほとんど取材を受けることのない店も、この本にはいくつか掲載されているのがこの著者のすごいところだ。
3年ほどバイトとして働いていたので、常連客の顔もしっかり覚えた。本当にいろんな人がいた。京都らしい場所にあったので、京都の街をぎゅっと凝縮したような客層だった。
その喫茶店は自分にとっては全く日常でない場所だったけど、ここを日常にしている人もいる、ということがなぜかとても新鮮だった。
自分の知らない世界をみている人がいて、不思議とその人にいまこうして接客している。
店側から見る喫茶店は、またお客さんとしてのそれとは全然違うものだった。
いろんな人が交わる場所だから、面白い。
いつのまにか、その店に馴染んだお客さんが残るから、面白い。
一つ一つの店特有の雰囲気ができるから、面白い。
喫茶店の魅力は、語り出したら尽きないと思うが、それぞれの物語、記憶をなぞるだけでも、喫茶店好きにはとても幸せなことだ。
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